17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン

 老いたフロイトと青年の交友を描いた作品(東座作品紹介)田舎から大都会ウィーンのタバコ屋で働き始めた純朴な少年は、恋のアドバイスをフロイト先生から得る機会を得る。

 世界的な名声を得ていたフロイト“先生”としてではなく、近所の“おじさん”としてのフロイトと純朴な青年という“あったかもしれない斜め”の関係が面白い。フロイトは弟子に権威を振り回し、たびたび弟子に離反された人だが、晩年の素顔はあんな好好爺だったかもしれないと思わせる。

 「夢を書き留めなさい」というのはフロイトらしい。アドバイスにしたがって青年が書き留めた夢は、この青年の願望や時代背景をよく表している。それがウィーンやオーストリアの歴史ある街並みや美しい景色と相まり、この映画に奥行きを与えている。

 だが「頭から水に飛び込むために、水を理解する必要はない」などと寅さんみたいな“世間のおじさん”チックなことを言っただろうか。あったかもしれない。じつはフロイトが弟子にある時、大人の条件を問われた時、「愛することと働くこと」と根拠も示さず端的に答え、それで一冊の本が出来たこともあった(Eriksonほか、Themes of Work and Love in Adulthood)。

 これも世間でもまれて苦労したおじさんのような答えだが――実際、フロイトは苦労人だった――、それが頭でっかちの弟子たちに衝撃を与えたのだった。

 ところで青年が最後、ナチに反抗的な態度をとって逮捕され、生きては帰れないだろうことを示唆するラストは後味が悪い。フロイトのアドバイスもあったのだから、生き抜くというラストの方がよかった。