吉田喜重『秋津温泉』1962年

 戦争末期、病気で戦争に行けない文学青年・周作(長門裕之)が温泉旅館に静養し、ヒロイン新子(岡田茉莉子)に出会い、彼女に生きる意欲を与えられたところから物語が始まる。

 戦後、この文学青年は自堕落なアプレ的な生活を送り、温泉に来るたびに新子に励まされる。男は結婚と就職をきっかけにすっかり生活意欲を取り戻す。逆に新子の旅館は傾いていく。そうした中、新子の周作に対する思いは募っていく。最後は新子が旅館をたたむことを知って、周作と結ばれ、新子は自死を遂げるのだった。なんだかダメ男を知ったばかりに幸福を逃してしまった可哀そうなヒロインだった。それでも、美しさが際立っていた。舞台となった現岡山県奥津温泉の景色、古い旅館のたたずまいが美しい映画。音楽は林光の弦楽四重奏で、傑作といっていい。